ムラーバハとイスティスナー
ムラーバハ(murabaha)とイスティスナー(istithna)は、イスラム銀行自身が商業取引を仲介する取引で、イスラーム銀行の資金運用手段の主流です。
ムラーバハ
ムラーバハは、イスラーム銀行が顧客に代わって商品を仕入れ、顧客に商品を、購入代金に手数料を上乗せした代金で転売する仕組みです。
よく「コスト上乗せ融資(cost-plus financing)」と訳されます。イスラム銀行は仕入れ元には対象商品と引き換えに代金を即金で支払い、顧客からは、商品を引き渡した上で、その代金については予め決められたスケジュールで受け取ります。顧客は分割または一括で後日支払うことになります。
自動車ローンの場合を考えてみましょう。
ムラーバハの自動車ローンでは、イスラム銀行がディーラーから自動車を購入し、顧客に転売する形になります。
イスティスナー
イスティスナーは、基本的にムラーバハと同じ取引契約ですが、「契約成立時点では対象商品が存在していない」という点で異なります。たとえば、建設予定の建築物等を対象として、イスラム銀行が購入し、それを顧客に引き渡し、後日一括、分割で代金+手数料を受け取ります。
イジャーラ
イジャーラ(ijara)は物品等資産の賃貸契約です。通常の「リース契約」とほぼ同じです。
イージャラは「リース契約」
物品の所有者である貸手(レッサー)が、当該物品の借手(レッシー)に、契約のリース期間、使用・収益する権利を与えます。借手は、合意された使用料(リース料)を貸手に支払う取引です。
イジャーラは、「アラビア語でリース契約の意味」と言ってもいいほどです。
ただし、リース契約との違いは、「支払い遅延が起きた時に罰則金利を課してはならない」ということです。イスラムでは利子が禁止されているためです。この点はリース契約と異なる点です。
住宅ローンはイージャラが主流
住宅ローンの多くは、このイジャーラ契約を用いるのがイスラーム金融では普通です。
イスラーム銀行が住宅を購入し、それをローンの借り手に「住宅賃貸料」と「住宅購入代金」を支払ってもらう方法です。購入代金の支払いが進むと同時に、徐々に「住宅の所有権」が借り手に譲渡されます。
イジャーラで行われる住宅ローンは、「賃貸契約」と「割賦販売契約」を組み合わせた契約だといえます。
イスラム金融が拡大する背景
イスラム金融に注目される背景には何があるのでしょうか?
イスラム金融の拡大
バーレーンやマレーシアは、イスラム金融の先進国といわれています。バーレーン中央銀行(Central Bank of Bahrain)、マレーシア中央銀行(Bank Negara Malaysia)はイスラム金融部門の統計を公表していますが、イスラム金融資産残高の推移が年間成長率15%程度となっています。
シティグループのイスラム金融部門「Citi Islamic」は、最近の年間成長率を17%と報告しています。
このように、イスラム金融は非常に高い伸び率を記録し、安定的な成長曲線を描いています。
何が成長を促しているのか?
確かにグローバル化・グローバル経済は、世界中のあらゆるものがグローバルに共有または、緊密な関係を築くことを必要としています。イスラム世界で行われてきたイスラム金融というシステムが他の地域でも応用できるのであれば、グローバルに展開することも当然と言えば当然です。
欧米発祥の一般の金融制度が失った面をイスラム金融が持っているというメリット部分は確かにあります。イスラム金融は行き過ぎたリスク金融とバランスをとるための重要なシステムなのです。
オイルマネーの影響
近年は原油高の傾向にあります。原油価格上昇によって、イスラム圏産油国の投資家が運用できる資金量は大幅に増加しました。
このような石油からの収入を原資とした資産運用のみならず、原油高景気に沸いた湾岸諸国での開発プロジェクト(オフィス・商業施設等の不動産開発、石油関連プラントや工場の建設等)が次々にスタートしたことで、資金調達上、イスラム金融方式のものが増えたということも指摘できます。
9.11テロの影響
欧米諸国を中心に世界から、イスラム世界に向けられた「危険視」がイスラム金融を拡大させているということもいえます。
9.11テロ以降、イスラム諸国の投資家は米国での資産凍結を恐れて、米国から投資資金を引き揚げたのです。
引き上げられた資金イスラム諸国に還流することになりますが、それを運用する必要があります。その受け皿がイスラム金融だったということなのです。
このような「イスラム・マネー回帰」の動きがイスラム金融の拡大に大きく影響したのは確かですが、9.11テロ以前からイスラム金融の拡大の潮流があったため、9.11テロは、イスラム・マネー回帰を加速させたというほうが正しいでしょう。
イスラム世界自体の拡大
イスラム諸国は、少子化の現象が起きていません。人口増加率は先進諸国と比較して高めで、イスラム諸国は経済規模を大きくしています。
また、グローバル社会の中にあっても、イスラム社会は西洋文明との対立傾向を強めています。それにともない、イスラム教徒のアイデンティティ、宗教心は、高まりつつあると言っていいでしょう。
このようなイスラム文化への回帰の思潮がイスラム金融拡大の背景の一つとなっています。
金融システムとしての優位性
確かに、イスラム世界が拡大することで、それにつられてイスラム金融が拡大するということもありますが、実は、イスラム金融は非イスラム教徒の利用も多いのです。
それを考えると、イスラム金融という金融システム自体に優位性があるという「経済合理性」があるといったほうがいいでしょう。
一般的な金融と比較して、より低コストで資金が調達できるケースもあります。特に、投資運用の分野では、社会的責任投資(SRI)の一環としてイスラム金融を活用することも可能なのです。
イスラム金融であれば、シャリアに適合しているかどうか(倫理的な判断)が行われるため、反道徳的な事業を回避することが可能になるため、結果的に社会的責任投資になるということです。
イスラム金融が拡大する背景には、政治や経済、社会の構造変化、テロなどの情勢からの影響ばかりではなく、イスラム金融自体が持っている利点にイスラム世界のみならず、世界が着目し始めたということができるでしょう。
イスラム金融とは
「イスラム金融」は、イスラム教の教義に則った金融のことです。イスラム教の教義(イスラム法)は「人のあるべき生き方を示す道」という意味の「シャリア」と呼ばれています。そのため、イスラム金融は、「Shariah-compliant finance」(シャリアに適った金融)と呼ばれることもあります。
イスラム金融の特徴は主に2つで説明できます。1つは、「金利の概念がない」という点です。
イスラム教の教典(コーラン)では、イスラム教徒は「利子(リバー)」を受け取ってはならないと定めています。これと似たケースでは、中世以前のヨーロッパでもキリスト教が利子の受け取りを禁止していたこともあります。
2つめの特徴は、「金融取引の関連する事業につき、シャリアに反するものは排除される」ということである。イスラム教で禁止されている「豚肉やアルコールの摂取」「賭博」「武器」「ポルノ」「喫煙」などに関連した事業との取引(融資など)は禁止されます。
金利の禁止などは中世ヨーロッパにもあったことであり、イスラム金融が異質であるというわけではありません。また、融資先の事業内容を倫理的に判断するということも、非イスラム金融で行われていることです。
このように、イスラム金融は私たちの思い描く「金融」とそれほどかけ離れたものではありません。
さらに、イスラム金融はイスラム教徒(ムスリム)だけが参加するものではなく、非イスラム教徒でも利用できます。イスラム金融サービスを提供する組織の従業員もイスラム教徒である必要はありません。反対に、イスラム教徒はイスラム金融以外の金融サービスを利用することも普通です。このようにイスラム金融は宗教的に「排他的な」ものではありません。
イスラム金融の先進国の1つであるマレーシアでは、イスラム金融利用者の7割が非イスラム教徒だという調査結果もあります。また、多くの多国籍金融機関がイスラム金融事業を展開しています。
「イスラム金融入門」は、イスラム教の教義に則った金融であるイスラム金融システムについてまとめたサイトです。多極化した世界経済を理解する上でイスラム金融の知識は必須のものになっています。 イスラム金融入門について
「イスラム金融入門」は、イスラム教の教義に則った金融であるイスラム金融システムについてまとめたサイトです。多極化した世界経済を理解する上でイスラム金融の知識は必須のものになっています。
イスラム金融入門は、あくまで一般的なイスラム金融についての知識であり、この他に異なる見解があるかもしれません。イスラム金融について不明な点がある場合は、イスラム金融の専門家の見解を得てください。ご利用の際は自己責任でお願いいたします。
